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経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える

経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える
ダニエル・コーエン (著), 林 昌宏 (翻訳)
作品社 (2013/3/30)

壮大な人類史的な邦題ながら、原題は"La Prosperite Du Vice: Une Introduction (Inquiete) A L'Economie"で、直訳すると「悪徳の繁栄─不安になる経済学入門」というわけで、現代の経済はそろそろ考えないと維持困難な段階に入ってますよ、という警句の書。

その経済を考えるのに一応古代から話を始めるものの、議論の中心は近代ヨーロッパであり、歴史ごとに当時の経済学者がどのように経済を分析してきたか、幅広い学術的知識を鏤めて描く。

著者の主張をおおよそ一括りにしてしまえば、経済成長が減速すると社会の均衡を維持することが困難になる、技術進歩は必ずしも創造的ではなく破壊的でもある、人類は事後に自分たちの過ちを正すことが許されない時代になった、経済成長や国際貿易は歴史的に分析すれば国家が自らの野望を実現する戦争をもたらしてきた、世界は無限ではなく閉じているという考え方に移行しなければならない、などである。

こういうテーマの大きな著作は、そのテーマや結論それ自体よりも、議論や脚注の中に新しい発見があって楽しめるもの。

例えば、中国がヨーロッパのような経済成長を実現できなかった理由は、元の支配から脱した15世紀の明は中国南部に移動したが、石炭は中国北部で産出されたことや、明が外国貿易を廃止し、国内の安定化を優先させた点などにあったこと、ヨーロッパ列強同士にの競争に相当する刺激が中国にはなかったから、などとしている。

また、ナポレオン法典は遺産相続を兄弟平等にしたため人口が抑制されたとか、経済成長率が高い国で貯蓄率が高いのは、消費規範が変化するまでのタイムラグがあるためだとか、アメリカというリーダーの物真似にもとづいた経済成長が際限なく持続することは、日本やフランスの例からあり得ず、中国やインドもいずれ息切れを起こすという主張を、きちんとその出典を明らかにして言及してくれているのは有り難い。

・暴力が起こるのは少数派が存在するからではなく、暴力が少数派を作り出す。
・近代の経済成長は、資本以外に、国家が公共財として責任を負う教育や公衆衛生と、効率的な社会制度が必要。日本はこれらをきちんと整備した。
・経済発展により人口減少が生じたのは、女性が働くために産む子どもの人数を減らしたいと望んだ以上に、世界中で放送されるアメリカの映画やTV番組を見て、アメリカ製のイメージが浸透したから。世界の人口動態や物質的変化より先行している。

など興味深い分析をたくさん紹介してくれていて、知的好奇心を満たしてくれる。
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Kazuhiro Terada

Author:Kazuhiro Terada
東京在住。デンマーク・コペンハーゲンにも住んだことあり。

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