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ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場

ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場
フィリップ・デルヴス・ブロートン
日経BP社
2009年5月21日

「不幸な人間の製造工場」という副題は、この本の最後の第16章のタイトル。それを日本語版では本全体の副題にしてしまっています。

著者は、英国の新聞デイリー・テレグラフ紙の元記者でイギリス人。もちろん、ハーバードビジネススクールを批判的は視点から書いているけれど、その良さ、素晴らしさについても公平に言及していて、日経BP社がつけた副題は、明らかに意図的ではあります。

ハーバードビジネススクールにはどんな学生が集まってくるのか、どんな授業が行われているのが、卒業生はどのような就職先に進むのか。ジャーナリストならではの臨場感あふれる筆致で、活き活きと描いています。

とは言え、価値とか評価とかいった言葉を多く使う人たちの、人生の幸せについての価値や評価を、ちょこっと風刺しつつ、その最後の章で、著者はこう言います。

「MBAにとって育まれ、維持されているシステムにおける経済的報酬の配分を見ると、そこにはやさしさのかけらもないことがわかるだろう」

「私たちの社会は、自己陶酔的な表計算屋、パワーポイントのプレゼン屋によってなるほんの一握りの人間の階層に、過大な力を与えすぎてしまったのだろうか?」

「長年、ハーバードビジネススクールについて書かれたものを読んでいて興味深いのは、こうした疑問が同校を経験した者たちの心につねに浮かんでいるということだ」

そこそこオススメの一冊でした。

テーマ : 読んだ本の紹介
ジャンル : 本・雑誌

tag : ★★★★

仮面の告白

三島由紀夫『仮面の告白』
新潮文庫

言わずと知れた三島由紀夫の自伝的小説。彼の出世作となった名作である。

冒頭から、子どもの頃に周囲の男性や同級生の男子学生に、恋心、というより肉欲を抱き、そしてルネサンス期に描かれた青年の裸体を見て射精してしまう、というあまりに赤裸々な「告白」。

生まれた瞬間の記憶まで残っていると述べることによって、この小説がフィクションではなく、自らの同性愛を忠実に描いたものだと、読者に強く印象づけることまでしている。

それでも、後年、三島が結婚し、子どもをもうけたことから、三島自身の同性愛をあえて無視したような評論が散見されるのがおかしい。その意味では、この新潮文庫の巻末に掲載された福田恆存、佐伯彰一の解説文はいずれもどことなくよそよそしくて、本質をわざと外したような歯切れの悪さがただよう。

それはさておき、主人公は、女性に肉欲を抱かないからこそ、異性愛者である男友達に、女性について予期もせぬ発言をしてしまい、

こうした遅い理解が、必ずしも私の無知から来るのではなく、彼と私との明らかな関心の所在の差から来るのだということだった


と認識し、

女性に恋心を抱き始めた15,16歳の男友達に、あまりに醒めた直截的な表現で、女性の肉体的な魅力を言葉にした主人公が、男友達に驚かれる場面では、

私自身には女車掌なんかから受ける肉の魅惑がすこしもないのに、純然たる類推と例の手加減とで意識的に言われたあの言葉が、友人たちをびっくりさせ、顔を羞恥で赤くさせ、あまつさえ思春期らしい敏感な聯想能力で私の言葉から仄かな肉感的な刺激をさえ受けているらしいのを目の当たりに見ると、私には当然、人の悪い優越感がわきおこった。


と述べ、

これを読んでいる人にだって明白であろう。私がバスの女車掌について些か肉感的な言草ができたのは、実に単純な理由にすぎず、その一点だけに私が気付いていないということを。─それはまことに単純な理由、私が女の事柄については他の少年がもっているような先天的な羞恥心をもっていないという理由に尽きるのである。


とまで言い切っている。

三島自身がゲイでなければ、絶対に書けない言葉に違いない。

主人公は、園子と恋愛関係になる。本来、男は女を好きになるべき、女性と結婚すべきという暗黙の社会的強制力が、同性への愛を抑制してしまう悲劇だと思うけれど、実際、ゲイにそんなことができるわけもなく、園子とのキスシーンでは、

私は演出に忠誠を誓った。愛も欲望もあったものではなかった。

私は彼女の唇を唇で覆った。一秒経った。何の快感もない。二秒経った。同じである。三秒経った。─私には凡てがわかった。



と、やっぱり女性は無理でした、と告白するのだった。笑

そういう意味では、ゲイである、ということ自体は、三島が告白した時点での時代的背景の中では大きな意味があったのかも知れないと思うけれど、現代的に理解すると、いまさら「告白」に値するほどのことではないと感じられる。

一方で、主人公の残虐性を嗜好する性向は、同性愛という少数者の中でもさらに少数の人しか抱かない、あるいは異性愛者の中にも少数はいるだろうから、こうした性向について、三島が赤裸裸に「告白」してくている意味は少なからずあったのではないかという気がする。この小説が書かれてから20年後に、実際、三島は、割腹自殺をすることで、その思いを自ら遂げたわけで、ある人の人生が一つの性向に支配され、社会的にも影響力を持つ、ということの意味は、今でも問われているのではないかと思う。

ちなみに、後に結婚した三島には、男性の愛人がいて、彼がそのことを「告白」している。

遺族の求めで出版が差し止められているようだけど。

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ジャンル : 本・雑誌

tag : ★★★★★

平家物語を読む

永積 安明『平家物語を読む―古典文学の世界』
1980
岩波書店

岩波ジュニア新書というのはなぜこうも名作ばかりなのでしょうか。

平家物語の中から10人を取り上げ、彼らの人生を生き生きと描写する著者の筆力というのか、平家物語、古典、人間への愛情に敬意を表したいと思います。

(手抜き感想文ですみません。★は5つ。満点。)

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tag : ★★★★★

三野村利左衛門と益田孝

森田 貴子『三野村利左衛門と益田孝―三井財閥の礎を築いた人びと』
(日本史リブレット人)
山川出版社
2011年12月

日本史の様々なトピック、人物をコンパクトにまとめた山川出版の「日本史リブレット」シリーズ。

「三井財閥の礎を築いた人々」と副題が付けられたこの号は、江戸時代から明治時代にかけて、呉服屋から三井銀行、三井物産、三井三池炭鉱と三井の業務や組織を発展させた三野村利左衛門と益田孝を取り上げる。

90ページ足らずの本ながら、引用/参考文献もきちんと記載されていて、固有名詞にルビをふってある点など、内容的に読み応えがあると同時に分かりやすい。

三井は幕府から明治政府への権力の転換にうまく適応して、政府とともに事業を拡大してきた歴史がよく分かった。

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tag : ★★★★

「思考の老化」をどう防ぐか

和田秀樹『「思考の老化」をどう防ぐか』
(PHP新書)
2011年9月16日

年齢を重ねても、柔軟な思考を維持することは、大切である。そういう人向けに書かれた本。

しかしながら。思考も年相応に、若い頃と年を重ねてからでは異なってくるのも事実。そんな疑問を抱きながら読んだ。

著者は、とにかく思考の老化の弊害を上げる。ページ全体の半分以上をそれだけに費やしている。

どう老化を防ぐかは、本の後半でようやく述べられるものの、特段目新しい指摘があるわけではなく、よくあるノウハウ本とあまり変わらない印象を受けた。

著者はいみじくも、中高年では知識のインプットよりも、未知の思索や新解釈が大切になると書いている。これはある意味「思考の老化」ではないのか。

あとがきで、「老化」と「成熟」は違うと書きながら、それがどう違うのかは必ずしも明示されておらず、どこか満足しきれない読後感が残った。

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tag : ★★

バチカンの聖と俗

上野 景文『バチカンの聖と俗―日本大使の一四〇〇日』
かまくら春秋社
2011年8月1日

駐バチカン大使を勤めた著者が、バチカンとカトリックの実情、さらには宗教を通してみた文明論を語る。

バチカン、ローマに旅行すればサンピエトロ大聖堂には行くけれど、詳しくは知らない、そういう日本人は多いと思う。

自分もその一人だったので、興味深く読んだ。

そもそも、「バチカン市国」と「Holy See」(HS、法王座、著者は法王国と意訳)の2つの呼び方のうち、日本ではもっぱら前者なのに対し、海外では後者が通常で、それゆえ、日本ではバチカンは「市国」という極めて小さな国というイメージしかないのに対し、海外では国際機関とも言うべき性格と存在感を持っているという指摘からしてガッテン。

バチカン市国なるもの自体は成立して80年。一方でHSは2000年の歴史と12億人のカトリック信者を持つ。英語ではHSがよく用いられるけれど、その意味合いが以前はよく分かっていなかった。

プロテスタントとカトリックについての理解の仕方は、著者がカトリックの側に立っている傾向があるとは言え、キリスト教をあまり知らない多くの日本人には参考になるのではないかと。

イスラム教のスンニ派は法理志向が強く、プロテスタント的であり、シーア派は神学・哲学志向が強く、カトリック的である、それゆえ、カトリックとシーア派が親和的というある神学者の言葉を著者は引用しているが、これもなるほどと思えた。

バチカンを通じて見える世界、世俗化が進み宗教観を失った日本人には見えない世界について、覚醒させてくれる本であり、おすすめできる。

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ジャンル : 本・雑誌

tag : ★★★★

孤独―新訳

アンソニー・ストー, 吉野 要, 三上 晋之助『孤独―新訳』
1999
創元社

タイトル通り、「孤独」の価値について論考している一冊です。

自分の専門外の分野の、3000円以上するような専門書を買うなんてことは普段ほとんどないんだけど、図書館で借りて読んでいるうちに、これは買ってしまおうと思いました。

現代の世の中は、他人との協調性や、社交力ばかりが重視されるけれど、孤独でいること、孤独でいられることが、どんなに大切な価値を持つのか、著者は、多くの事例とともに論じています。

箇条書きにまとめると、

・自分の最も深いところにある考えや感情に触れることができる
・その考えや感情が自ら新しい形や組み合わせを作っていくための時間を与える
・このことが緊張を和らげ、精神的健康を増進させる
・個人が最高の可能性を実現する
・祈りや瞑想によって喪失体験と折り合う
・考えを整理する
・物の見方を変える
・個人の興味がアイデンティティを明解にし、一人の人間の人生を意味づける
・・・などなど。

もちろん、人生には、個人の趣味や信仰、思考ばかりでなく、対人関係も重要で、著者が単純に孤独を礼賛しているわけではないけれど、完全な人間関係を求めることが、そもそも不可能なことだということを認識しないで、やみくもに「ふさわしい」相手と「理想的な」関係を結ぶことが幸せであり人生の充足なのだと、信じ込まされている人たちには、示唆的だろうと思います。

素人があえてこの本に難癖をつけるとしたら、孤独によって何かを創造した例が、文学者や作曲家の天才ばかりで、一般の人たちの人生とはどこか隔絶した世界の話のように聞こえるところ。読者の納得する例としては、誰もが知るベートーヴェンのような例を出すのが分かりやすいのかも知れないけれど。

ところで、個人的には、ブラームスの晩年の作品について、一種の悟りの境地かと思っていたけれど、著者が「過去の成果や快楽についての嘆きというよりはむしろ、失われた機会に対する未練の表現」と指摘しているのは、独身を通し、「彼の感情は完全には充足されることはなかった」ことを考えると、なるほどと思いました。

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tag : ★★★★★

ローマ人の物語 (15)

塩野 七生『ローマ人の物語 (15)』
2004
新潮社

文庫本で30巻以上になる大作ですが、その15巻目で塩野さんが引用しているのが、ローマ人の墓碑の言葉です。

古代ローマ人は、死者だけを集めて生者の生きる場所から隔離した墓地を作ることはしなかったそうな。死を忌み嫌ったりしなかったからだそうだけど。

そういうわけで、ローマへ通じる街道沿いには、さまざまな社会階層に属す人々の墓が並び立っていたらしく、「これらの墓所は、各種各様のデザインを競った造りであり、墓碑に刻まれた文章も多種多様であったので、旅人には格好の憩いの時と場を提供しただろう」とのこと。

その例、3つ。

「おお、そこを通り過ぎていくあなた、ここに来て一休みしていかないか。頭を横に振っている。なに、休みたくない?と言ったって、いずれはあなたもここに入る身ですよ」

「幸運の女神は、すべての人にすべてを約束する。と言って、約束が守られたためしはない。だから、一日一日を生きることだ、一時間一時間を生きることだ、何ごとも永遠でない生者の世界では」

「これを読む人に告ぐ。健康で人を愛して生きよ、あなたがここに入るまでのすべての日々を」

塩野さんは、これらの墓碑の文章が、ローマ人の健全な死生観をあらわして余りあると言っておられるけれど、確かにこう考えると、どこか死を恐れる不安感を常に意識しながら生きている自分がちょっと恥ずかしく感じられました。

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tag : ★★★★

ローマ人の物語 (23)

塩野 七生『ローマ人の物語 (23)』
2005
新潮社

帝政に入って13人目までの皇帝の時代を描きます。

で、巻末に「付記」されてる詩人マルティアリスの作品が良くて。
2000年前から、人は基本的に変わらないのだなあと思います。

「人生を愉しむのは明日からにしよう、だって?
それでは遅すぎる、ポストゥムスよ。
愉しむのは今日からであるべきだ。
いや、より賢明な生き方は、昨日からすでに人生を愉しんでいる人の生き方ですよ。」

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tag : ★★★★

幸福の研究―ハーバード元学長が教える幸福な社会

デレック・ボック『幸福の研究―ハーバード元学長が教える幸福な社会』
東洋経済新報社
2011年9月23日

原題はThe Politics of Happiness - What Government Can Learn from the New Research on Well-Beingなので、「幸福の政治」と言った方が内容を正しく表すと思うけれど、「幸福の研究」の方が売れるのかも知れない。

著者は元ハーバード大学学長の法学者。本書は、米国は、世界一繁栄する大国ながら、なぜ国民の幸福度が低いのかという問題意識に基づいた著作だと思われる。

政策は幸福を目的にすべきとの主張を、非常に慎重な議論で進める。具体的には、難病などの苦痛を軽減することや、幸福水準を高める手段として、結婚と家族、教育や政府の質を重視した政策を遂行すべきと述べる。

GDPなどで示される、経済成長一辺倒な風潮への批判は、法学者であり教育者である著者ならではの主張だと感じるけれど、ハーバード大学だって専門職大学院がそうした風潮を助長したところがあるような気もする。

個人的には、政府の質とメディアのあり方を論じた章に説得力を感じた。近年、メディアの政治報道が、否定的なものばかりで占められるようになったことで、政治的プロセスへの信頼の欠如をもたらし、それが投票意欲を弱めることで政治的不平等を一層悪化させた。そして、国民が国に期待する役割と、公的サービスのために負担してもよいと考える税金の間に大きなギャップを生みだした。このことが、アメリカという国の理想を実現することすら困難にしていると。

なお、満足いく結婚や家族との関係が、幸福水準を高めるために重要であり、政策としても支援すべきと著者は主張し、かつ、同性愛者の差別を否定的に記述する部分が複数ありながら、ハーバード大学があるマサチューセッツ州以外の州や、その他の国における同性結婚が認められない現状についても語らないのは少々残念。

共和党あるいは右派の側からは批判の対象となることが容易に想像される主張であり、実際、amazon.comでも、5つ星と1つ星に評価が分かれるのは理解できるところ。

邦訳が、恐らく元の英語がまどろっこしいのだろうけど、どうも読みづらい気がしたので星4つ。

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